アルミダイカストは、複雑かつ高精度な金属部品を効率的に量産できる代表的な製造プロセスです。しかし、アルミダイカストで長年課題となっているのが「ポロシティ(巣・気孔)」の発生です。ポロシティは機械的特性と鋳物品質に大きく影響し、強度低下や健全性の損失を招き、重要部品では破損につながる恐れがあります。
ポロシティの発生要因を理解し、実践的な対策を講じることは、高品質なアルミニウムダイカストを確実に生産するうえで不可欠です。本稿では、アルミダイカストにおけるポロシティの代表的な原因を体系的に整理し、その低減・解消に有効な実務的ソリューションを提示します。これらの課題に適切に対応することで、鋳物の信頼性と性能を高め、市場競争力の向上につながります。
アルミダイカストのポロシティとは、金属内部に生じる微小な空隙(ボイド)を指します。大きさや分布はさまざまで、通常は金属の凝固過程で形成されます。ポロシティは大きく「ガスポロシティ」と「収縮ポロシティ」に分類できます。
ガスポロシティ
鋳造過程で空気や水素などのガスが溶湯中に巻き込まれることで生じます。発生要因には、金型・中子材の含水、適切でないベント設計、溶湯中の乱流などがあります。丸みを帯びた小孔として現れることが多く、材料の構造健全性を損ないます。
収縮ポロシティ
溶湯が凝固・冷却するときの体積収縮が原因で、収縮分を補う給湯が不足すると空隙が形成されます。不規則で比較的大きなキャビティとして現れ、鋳物の強度を大きく低下させます。
機械的特性・品質への影響
ポロシティはアルミダイカストの機械的特性と総合品質に多面的な悪影響を及ぼします。
強度低下:引張強度・疲労強度の低下により、荷重下で割れや破損が生じやすくなります。
耐圧漏れ:油圧部品や自動車部品など、圧力保持が重要な用途で漏れの原因となります。
表面品位の低下:表面に現れたポロシティは粗さや外観不良を生み、機能・意匠の両面で不利に働きます。
加工性の課題:加工時の工具摩耗や寸法不良を誘発します。
ポロシティは鋳造プロセスの各段階で複合的に発生します。主因を正しく理解することが、効果的な低減策の前提となります。
最も一般的な原因の一つで、空気・水素・汚染ガスなどが溶湯に取り込まれて発生します。代表例:
金型・中子材の水分:鋳造時に水分が蒸発しガス化します。
空気巻き込み:乱流や不適切な湯流れで空気が取り込まれます。
水素吸収:アルミ合金は雰囲気や湿潤材料から水素を吸収し、凝固時にガス泡化します。
金属固化時の体積収縮により、収縮分を補う給湯が不足するとキャビティが生じます。助長要因:
給湯不足:凝固過程での溶湯供給が不十分。
不適切な押湯設計:押湯(リザーーバ)の容量・配置が不十分で給湯が追従しない。
急冷・不均一冷却:適切なフィーディングを阻害し、収縮ポロシティを悪化させます。
型内ガスの排出が不十分だと、ガスが閉じ込められポロシティになります。留意点:
ベント経路の不足:十分なガス抜きが無いとガスが滞留します。
ベント閉塞:堆積物やメンテナンス不良でベントが機能しません。
合金中の不純物・介在物はポロシティの核となり得ます。主な発生源:
再生材:再生アルミの使用で不純物が混入する場合があります。
酸化皮膜:溶湯表面の酸化皮膜が巻き込まれると空隙の原因になります。
異物粒子:ダスト、スラグなどがポロシティの起点になります。
最終品質と健全性を確保するには、適切な検出と定量評価が重要です。目的・適用範囲に応じて、以下の手法を使い分けます。
最も簡便な方法で、表面のポロシティを直接確認します。例:
表面欠陥:微小孔や粗れの有無を観察。
色調の差:色むらは内部空隙や介在物の兆候である場合があります。
ただし、内部欠陥の検出には限界があります。
鋳物を破壊せず内部ポロシティを検出する手法です。代表例:
X線検査
X線ラジオグラフィ:X線透過像から内部欠陥を可視化し、ガス・収縮ポロシティの双方に有効です。
CT(コンピュータ断層撮影):鋳物内部を3Dで可視化し、ポロシティの正確な位置・大きさを把握可能。複雑形状や重要部位に適します。
超音波探傷
超音波探傷試験:超音波の反射波を解析して内部空隙を検出。厚肉部の評価に有効です。
利点:�������������。
試験片を切断し、直接観察・定量する方法です。詳細な情報が得られる一方で、試験片は使用不能になります。
金属組織観察
切断・研磨:顕微鏡観察により、ポロシティのサイズ・分布・形態を詳しく評価します。
定量解析:画像解析で空隙率やサイズ分布を算出します。
密度測定
アルキメデス法:空気中と液中の重量差から密度を測定し、理論密度との差からポロシティを推定します。
ポロシティ指数:密度結果から空隙量を指標化します。
金型設計、プロセス制御、合金の選定・前処理、先進鋳造技術を組み合わせた多面的アプローチが必要です。
適切な金型設計はポロシティ低減の要です。主な改善点:
ゲート・押湯配置の最適化:乱流や空気巻き込みを抑えつつ、凝固時に十分な給湯が行えるよう設計します。
ベントと冷却系の強化:ガス排出を確保しガスポロシティを抑制。効果的な冷却水路で均一冷却を実現し、収縮ポロシティを軽減します。シミュレーションの活用で設計精度を高められます。
鋳造条件の安定化がポロシティ低減に直結します。
温度・圧力の適正管理:溶湯温度、金型温度、射出圧の一貫管理により、ガス吸収や収縮欠陥を抑制。自動制御でばらつきを低減します。
リアルタイム監視:センサーで充填挙動や温度・圧力を監視し、異常を即座に補正します。
合金選択と溶湯処理はポロシティ感受性を左右します。検討事項:
低ポロシティ合金の採用:高純度でガス吸収の少ないダイカスト用合金を選ぶことで、ガスポロシティの発生確率を下げられます。
脱ガス・精錬:フラックスや脱ガス剤、回転式脱ガスや不活性ガス(例:アルゴン)によって溶存ガスや介在物を低減します。
真空支援ダイカストは、型内の空気を排出してガス巻き込みを抑え、湯回りを改善します。
利点:型内空気を除去しガスポロシティを低減。複雑形状の充填性向上にも有効です。
導入とコスト:設備・運用コストは増加しますが、不良削減と品質向上により十分な費用対効果が見込めます。自社要件に応じて評価してください。
以下では、実生産でポロシティ課題に取り組んだ2つの事例を示し、具体的な対策と効果を紹介します。
課題:エンジン部品でガスポロシティが多発し、機械的強度と耐圧気密性が低下していました。
実施策:
金型ベント強化:ベント経路を追加・最適化し、型内ガスの排出性を向上。
脱ガス処理:アルゴンによる回転式脱ガスを導入し、溶湯中の水素量を大幅に低減。
プロセス管理:溶湯温度と型充填圧のリアルタイム監視を実装し、条件の一貫性を確保。
効果:
ポロシティ低減:X線検査で欠陥数が有意に減少。
機械特性向上:引張強度が約15%向上し、耐圧基準を満足。
歩留まり改善:ポロシティ起因の廃却率が約25%低下し、コスト削減と生産性向上を達成。
課題:構造部品で収縮ポロシティが問題となり、強度・耐久性に懸念がありました。
実施策:
押湯設計の最適化:シミュレーションで押湯の配置・容量を検討し、凝固時の給湯性を確保。
冷却制御:金型冷却水路を改良し、より均一な凝固を実現。
真空支援:真空支援ダイカストを導入し、空気巻き込みを抑制し湯流れを改善。
成果:
収縮キャビティの抑制:金属組織観察で空隙が大幅に減少し、緻密で均質な組織を確認。
信頼性向上:疲労抵抗と耐荷重が改善し、厳格な航空宇宙要件を満足。
コスト効率:不良・手直しの減少により生産コストを約20%削減しつつ、高品質を維持。
